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第二十九話 『その人の隣』 ◆珠希

last update publish date: 2026-09-08 20:37:15

 仕事を終えた珠希は、その足で地下鉄へ乗り込んだ。

 氷室メディカルセンターへ向かっていた。

 母が長く入院していた東京国際記念病院。そこから氷室メディカルセンターへ転院が完了するのは、今日の昼過ぎの予定だった。

 本当は仕事を休んで付き添うつもりだった。けれど母から、「珠希の今やるべきことに集中してほしい」と言われ、搬送や手続きは医療ソーシャルワーカーたちに任せることになったのだ。

 ほんの少し前の珠希なら、それを受け入れられなかったかもしれない。

 物心がついたときから母と二人きりで生きてきた。これから先も、何かがあれば自分が支えなければならない――ずっと、そう思ってきたからだ。

+   +   +

 案内された病室へ入ると、大きな窓いっぱいに、沈む直前の夕日が輝いていた。

「お母さん」

 ベッドの上で本を読んでいた母が顔を上げる。

「珠希。わざわざ来てくれたの?」

「当たり前じゃない。それより、大丈夫だった? 疲れてない?」

「大丈夫よ。皆さん、とても親切
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  • 氷室雪臣の環愛―契約結婚のはずですが、孤高の御曹司はマリッジリングを外さない―   ◇10月の連載予定のお知らせ

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